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12月21日

 佐久間はため息をついて電話を切った。そのまま携帯を枕へと放って、座っていたベッドにパタリと倒れ込む。
 週に一度、間が空いても二週間に一度はかかってくる母からの電話は、とにかく長くて憂鬱だ。しかも、一言目には「ちゃんと食べてるの?」、二言目には「いつ帰ってくるの?」ときて、三言目には「いい加減、戻ってくればいいのに」と続くのだ。毎回同じことを繰り返されるので、いい加減、次に何を言われるのか分かってより一層げんなりしてしまう。
 確かに、実家を出て一人暮らしをしてから、月に一度顔を出せばいい程度の帰省しかしていないが、そもそも、実家も今の部屋も同じ都内だ。そうそう頻繁に帰る距離でもないだろうと佐久間は思う。
 だいぶ前に実家に帰った時に父に向かってそう言ったら苦笑された。
「まぁ、往々にして、母親の方が子離れしにくいっていうからな」
 そう言われた時には、半ばわがままを通した形で一人暮らしを始めたのは自分の方だという負い目もあったので、一応納得はしたのだが。それでもやはり、何度も同じことを繰り返すのは正直堪える。
 ごろりと寝返りをうって天井を見上げた。半年以上を過ごしてようやく見慣れて来た天井は、新築のせいもあってか白く高い。この部屋の次に見慣れてきた天井は、理一の部屋の寝室だろうかと、佐久間は思う。
 理一の部屋の寝室の天井はこの部屋の目に痛い白い天井と違って柔らかなオフホワイトをしている。眼鏡を外した、効かない視界の中でオレンジのライトが影を引く天井を目にすること半分、フローリングが弾く朝の光に照らされた明るい色の天井を目にすることが半分といったところだろうか。
 そこまで考えて佐久間はもう一度ころりと転がった。布団に顔を埋めて自分が自分に与えたダメージをやり過ごす。天井だけにとどまらす、ベッドサイトのライトに照らされて不規則に揺らめく理一の横顔だとか、朝の日差しの中で見る理一の寝顔だとかまでを思い出してしまったのだ。
 佐久間はしばらく顔を伏せてじっとしていたが、走り出した鼓動が落ち着くのを待って、もそりと顔を上げた。この頃、どうにも終わっているような気がして仕方がない。
 さっき、母との電話の中で「年末年始はいつ帰ってくるの?」と聞かれて即答できなかった。理一はいつまで東京にいるのか、いつから上田に帰るのか、まだ何の予定も聞いていなかったからだ。できれば、長野に行くぎりぎりまで一緒にいたいと思う。そして、理一が東京に戻るタイミングでこの部屋に戻ってきたい。
「…。」
 佐久間は掛け布団の端を握ると、思い切りをそれを引いた。胸の前に握り込んで、布団が作った闇の中に逃げ込む。誰も見ていないと分かってはいるが、赤く染まった顔を晒していたくなかった。
 薄闇の中で、佐久間は一つため息をつく。
 こうして、闇の中に閉じこもっていても、思考が走って行くのは理一の居る方だ。今以上に理一のことが好きになって、これ以上その思考を理一で埋め尽くしてしまったら、自分はどうなってしまうのだろう。
 たぶん、全てが終わった時には自分すら残らないのだろうと、佐久間は思った。






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