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12月14日

 寝支度を整えた佐久間はいつものようにパソコンチェアに腰を降ろした。14の数字の引き出しを引き、オーナメントを取り出す。
 佐久間は出て来たものにきょとりと一つ瞬いた。
 今日のオーナメントは紙の印刷物ではなかった。直径1.5cm程の、銀色のオーナメントボールだ。よくショーウィンドウに飾られているもみの木にぶらさがっているものとよく似ている。それよりもだいぶ小振りではあったが、それも飾り付けるもみの木のサイズを思えば納得できた。
 佐久間は小さく笑ってそれをもみの木の中程に飾る。
 紙のオーナメントと違って銀色のボールは小さく揺れ続けている。佐久間はそれをぼんやりと見ながら机に頬杖をついた。視線を引き出しの連なった箱へと向ける。
 開いていない引き出しはあと10個。いつの間にか、折り返し地点を過ぎていたんだ、と佐久間は思う。もみの木へと視線を戻せば、ランダムにオーナメントがぶら下げられている。シンメトリでもなく、規則性もなくぶら下がっているそれらは、不思議と歪な印象を与えない。それは、オーナメントの色調が似通っているからなのかもしれない。赤を基調にした少し落ち着いた色合いのオーナメント。その中にあって、銀のオーナメントボールは異彩を放っている。材質が違って見えるから余計にそう思うのかもしれない。
 顎を乗せていた左手から、腕にそってずるずると頭を落とす。天板にぺたりと頬を付けて、佐久間はオーナメントボールをつついた。
 机の上、画面の向こう側に、濃い紺色の紙袋に白いリボンでラッピングしたプレゼントが置かれている。健二の買い物に付き合った時に、こっそりと買った理一へのクリスマスプレゼントだ。
 結局、何をプレゼントしたらいいのか、悩みに悩んだあげく、モスグリーンのカーディガンを選んだ。カシミアだというそれを、部屋着としてでも着てもらえればと思う。
 そういえば、昔、何かの雑誌に載っていた。男が服を贈るのは脱がせるためだと。
 佐久間は顎の下に敷いていた右腕を伸ばして、紙袋にそっと触れるとくつりと笑った。
 このカーディガンを理一が着てくれたとして、それを自分が脱がせる、などというシチュエーションが果たしてあるだろうか。逆に、あの柔らかな手触りの編み地に、すがりついて、握りしめて、引きのばしてしまう確率の方が高そうな気がする。
 そこまで考えて、佐久間はぱたりと顔を伏せた。頬の当たった左手の甲が熱い。
「…どんだけ乙女思考だよ、俺」
 呟いた声にかぶった携帯の着信音に、佐久間はびくりと肩を大きく揺らした。勢い良く顔を上げて、床に置いたままの鞄から携帯を取り出す。鳴り続けるそれはメールではなく電話だ。
 日付が変わってだいぶ経つ。この時間に電話をかけてくる相手など、一人しか思い当たらない。案の定、思った通りの名前が表示された画面に、佐久間は赤く染まった頬を緩めた。






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