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12月11日

「痛みは?」
「だいぶ引きましたよ」
 ソファに座った佐久間の前にひざまずくように座った理一が、足首を固定していたテーピングを外す。佐久間の踵に手をかけた理一はそっとそれを持ち上げると、折った己の膝に乗せた。柔らかく確かめるように触れると、軽く眉根を寄せる。
「まだ少し、熱を持ってるようだけど」
 言いながら、理一は傍らに置いた湿布薬のセロファンをぺりぺりと半分ほどはがした。もう片方の手の親指で踝の横のくぼみを軽く押す。
「ほら、ここ」
「…って!」
「やっぱり、まだ痛むんじゃない」
「そりゃ、押されりゃ痛いですって!」
 思わず理一の肩をぺしりと叩いた佐久間に、堪えた風もなく理一が笑みを向ける。
「ほら、湿布貼るから。動かない」
「…はい」
 ひたりと、湿布の冷えた感触を踵に感じて、佐久間は一瞬肩を竦めた。次いでテープが貼られ、軽く引っ張られる感覚とともに踵が固定されていく。
 理一の手つきは淀みがない。するするとテープが踵を覆って行く。緩くもなくきつくもなく、程よく動かせる程度に固定されていく。それを佐久間は感心しながら見つめていた。
「はい、おしまい」
「ありがとうございます」
 そっと足を降ろされて、佐久間は踵で床を叩いた。何度か踏みしめて、小さく頷く。
「どう? 動かしづらくない?」
「大丈夫です」
 動きを確かめる佐久間の姿に、湿布薬やテープを片付けながら理一は軽く笑う。救急箱を片付けリビングに戻った理一は、佐久間の隣に腰を降ろした。その動きを目で追っていた佐久間が、ソファに腰を降ろした理一を見上げて気まずげな表情を浮かべる。少し視線を彷徨わせて、意を決したようにもう一度理一を見上げて口を開いた。
「すみませんでした」
 佐久間の言葉に、理一がきょとりと一つ瞬く。
「何が?」
 理一の言葉に佐久間は視線を俯けた。
「…その、病院つれてってもらったりとか、いろいろ…」
 理一さんお休みだったのに、と続けた佐久間に、理一は一つため息をついた。ソファの座面に両手をついて俯いた佐久間の肩に腕を回し引き寄せる。とん、と肩に頭が触れて、佐久間が俯けていた顔を上げた。へにょりと情けなく寄った眉に、思わず苦笑が漏れる。理一は空いた手を伸ばすと佐久間の頬をむにゅっとつまんだ。
「…いひゃいです、りいちはん」
「違うでしょ?」
 頬をつまんでいた手を離して、促すようにそう言えば、佐久間の眉がさらに情けない形に下がった。
「こういう時に言う言葉は?」
 何か言いたげに、佐久間の口が数回開け閉めされ、やがて諦めたようなため息が一つ漏れる。ぎゅっと、肩に額を押し付けて、佐久間は小さく呟いた。
「ありがとう、ございました」






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