12月9日
佐久間は顔を顰めて足をついた。しまったな、とは思うものの、すでに起こってしまった出来事はどうにもできない。
たまたまだったのだ。たまたま、研究室の前の廊下に段ボール箱が積み上げられていて。その段ボール箱には、たまたま溶解予定の古い書類がぎっちり詰まっていて。そして、その段ボール箱を背に立ち話をしていた研修生二人に佐久間が声をかけた瞬間、たまたまそれが崩れた。
咄嗟に持っていた荷物を放り出して、崩れて来た段ボール箱の前に立っていた方の研究生の腕を握って引き寄せた。…までは良かったのだが、その研究生が女性だったために、勢いがつきすぎて立ち位置が入れ替わってしまったのだ。崩れてくる段ボール箱は佐久間の左足を直撃し、座り込んだところに第二陣が落ちて来た、というわけだ。
物音を聞きつけて研究室のドアから顔を出した健二が、慌てて手を貸して立たせてくれたが、正直、引っ張られるだけでも足に響いて、みっともなく呻き声を上げてしまった。
「捻挫ね。骨には異常なさそうだから、とりあえず冷やして固定。月曜日になっても腫れが引かなかったら病院行って診てもらいなさい」
校医に言われて頷いたが、立ち上がって、左足をついた瞬間、膝のあたりまで走った激痛に顔を歪めた。
「…今から救急車呼ぶ?」
それを見ていたらしい健二に言われるが、佐久間は苦笑して頭を振る。
「大丈夫だって」
そう言ってはみたものの、左足をつくたびに痛みが走る。少々きつめに固定されたためにほとんど動かない足首のせいで、歩き方もかなりぎこちない。
「我慢はしないほうがいいわよ〜」
そう言って手を振る校医に軽く会釈して二人は救護室を出た。
駅までは健二の肩を借りて歩き、普段は使わないつり革に縋って電車に乗り、なんとか家に辿り着いた佐久間は、痛みをこらえて部屋着に着替えた。しかし、洗面所へ行く前の休憩のつもりでベッドに腰を降ろしたところで限界がきた。
熱を持ってうずく左足を動かすことも出来ず、佐久間はそのまま布団へと倒れ込む。ゆっくりと、だましだまし姿勢を入れ替えて、右腕を下にベッドに横たわった。
床に転がした鞄のポケットに入れた携帯が振動していたような気がしたが、それを取り上げるために動くことすら億劫で。佐久間はそのまま目を閉じた。
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