12月7日
「明日、買い物付き合ってくれない?」
そう健二からメールが来たのは、午後の講義を終えてバイトのために週4日は通っている研究室へ向かっている途中のことだった。
違う学部に進学した健二と教室棟で顔を合わせることは案外少ない。今は一般教養の必修科目も多いからまだ顔を合わせる機会もあるが、専科に別れれば今よりも顔を合わせる機会は少なくなるのだろう。それを少し寂しいと思わなくもないが、四六時中べったりでいるよりも少し離れた方が互いの事がよく見えるのかもしれないと思うようになった。
健二のメールに返信しようか思案しているうちに研究室にたどり着いた佐久間は、直接口頭で返事をすることにして、携帯をしまうとがらりと引き戸を開けた。案の定、そこにはメールを送って来た本人がいつもの席にちんまりと座っている。
「あれ? 佐久間、午後の講義は?」
今メール送っちゃったよ、という健二に、佐久間は背負っていた鞄をおろし、部屋の中央に置かれた机へとそれを置くと、上着のボタンを外す。脱いだ上着をパソコンチェアにばさりと掛けながら佐久間は笑った。
「俺、今日は三限で終わり」
「そうだったんだ。てっきり四限までだと思ってた」
そう言ってへにょりと笑った健二の隣の席に座りながら佐久間も笑う。それを目で追った健二は、佐久間に椅子ごと向き直ると、膝の上に置いた手をぎゅっと握った。
「…で、明日なんだけど」
「ああ、いいぜ。付き合うよ」
そういえば、ありがとうと満面の笑みが返された。その全開の笑顔に内心驚きつつ、佐久間はパソコンを起動させる。
「で、買い物って、なに買いに行くんだ?」
モニタ側へと寄せていたキーボードを引き寄せながら問いかけた佐久間に、健二は小さく笑いながらぽりぽりと頬をかいた。
「その、か、佳主馬くんに…」
「キングに?」
健二の口から出た名前に、驚き1割、予測通りと思う心情9割で聞き返せば、健二はこくりと頷く。
「クリスマスのプレゼント、贈ろうかと思って…。去年は佳主馬くんにもらっちゃって、何も返せなかったし…」
そういう健二に、ああ、と佐久間は頷く。
佐久間も健二も、去年は受験生とあってクリスマスを意識する余裕もなく過ごしていた。そうこうするうち、健二宛に佳主馬から『受験頑張って』というメッセージ付きで時計が贈られて来たのだ。どうしようと慌てる健二に、とりあえず来年何か返すとして、今年は佳主馬の厚意に甘えておけといったのは、他ならぬ佐久間だった。
そこまで思い出して、佐久間ははたと気付く。
そういえば去年、自分も理一からクリスマスにプレゼントを贈られていたのだった。ドイツ製の細身の万年筆はとても使い勝手が良く、今も佐久間のスケジュール帳に挟まれている。
今年は自分も何か贈りたいと、佐久間は思う。だが、身の回りのものは嗜好品から普段使いに至るまでそれなりにこだわりを持っている理一のことだ。何を贈ったら喜んでもらえるのか見当もつかない。
「佐久間? どうかした? 明日、なんか予定あったりした?」
「あぁ、いや、大丈夫だ。なんでもない」
ふいに黙り込んだ佐久間を、訝しげな表情を浮かべて覗き込んだ健二が小さく声をかけてくるのに、佐久間は慌てて頭を振る。健二に笑みを返してやって、佐久間は起動したパソコンにIDとパスワードを入力するとOZへと分身をダイブさせた。とりあえず、バイトを早めに終わらせて何か理一に似合いそうなものを探そうと思いながら。
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