12月4日
佐久間は瞼にゆれる淡い光に意識を浮上させた。
小さく漏れたあくびをかみ殺し、数回瞬きを繰り返して目を開けた。とたんに視界に飛び込んで来たのは、理一のパジャマの胸元で。佐久間はそれに小さく笑みを浮かべた。
こうやって、理一の胸に額を押し付けるようにして眠るようになったのは夏の頃だった。理一の部屋の温度は、寒がりな佐久間には少し低めに設定されていた。そのせいか、熱を分け合って眠りについたその日、佐久間は夜明け前に寒さで目を覚ました。緩く自分の背中に回された理一の腕に気付いて、恥ずかしさのあまり悶絶しそうになったが、高い理一の体温に惹かれるまま、その胸元に額を当てたのが最初だったと思う。
佐久間は未だ目を覚まさない理一の寝顔をこっそりと見上げた。その顔に濃い疲労の色を見つけて、つい眉が寄ってしまう。
いつもなら、佐久間が起きた気配で目を覚ましてしまうほど、気配に聡い人なのに、今日はこれだけ長い時間見つめていても穏やかな寝息が途絶えない。それだけ、先週までの仕事は厳しいものだったのだろう。
それなのに、と佐久間は思う。
12月1日に、アドベントカレンダーの始まる日に待ち合わせのメールをくれた理一が、どれだけの無理をしたのか佐久間は知らない。聞いても理一は絶対に言わないだろう。問いつめても、はぐらかされるだけだということも分かっている。
だからせめて、オーナメントを全て飾り付けたツリーは理一に見せたいと思う。
「…さっきから、凄く情熱的に見つめられてるような気がするんだけど」
気のせいかな、と、笑い含みの声が突然頭上から振って来て、佐久間は驚きのあまり肩を大きく揺らした。
「…起こしちゃいました?」
「いや、目が覚めただけ」
言いながら佐久間を深く抱き込んだ理一は、そのやわらかな茶色の頭に軽く顎を当てる。
「…何、考えてたの?」
少しだけ声のトーンを落とした理一に問われて、佐久間は小さく笑う。顎が当たっているせいか、声が直接頭に響いてくるようだ。軽く頭を振ってそれを避けながら、佐久間は自分を抱き込んでいる理一のパジャマの袖を握る。
「ツリー、25日まで、理一さんには見せないでおこうと思って」
すんなりと返された答えに、理一は腕を緩めると佐久間の顔を覗き込んだ。その視線に合わせるように顔を上げて、佐久間は笑う。
「秘密にしてた方が、楽しいでしょ?」
いたずらっぽい佐久間の声に、理一も小さく笑う。佐久間は理一の口元に浮かんだ笑みを確認して、広い背に腕を回すと猫のようにその胸元に額をすりつけた。
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