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12月3日

 理一は手に軽い振動を感じてふっと目を開けた。
 久しぶりに連休になった週末、家の細々とした面倒を見て昼食を済ませソファに座ったところまでは覚えているが、どうやらそのまま眠ってしまっていたらしい。
 ここのところの激務の影響かと、眉を寄せて何度か瞬きをすると、軽く頭をふりながら身体を起こした。そして、振動のもとと思われるそれに視線を向ける。案の定、握ったまま寝ていたらしい携帯にメールの着信があった。小さな窓に表示された名前に薄く笑みが浮かぶ。
 昼食を済ませた時に送ったメールへの返信だろう。そう思いながらフラップを開け、ドット絵のサルのアバターが差し出すメールを受け取る。ボタンを操作してメールを開けば、望んだ通りの返事が書かれていた。ボタンを操作し、ただ一言だけのメールを返信する。己の緑色のアバターがゆらゆらと尻尾をゆらしながら泳ぎ去るのを見ながら、理一は小さく笑みを浮かべて携帯の画面を指でなぞった。
 心浮き立つようなこの感覚はとても久しぶりだと思う。彼の仕草の一つ一つ、彼の言葉の一つ一つに、心が左右されるようなこの感覚は、どこか甘やかな満足感を自分にもたらす。
 そして、彼の視線の先にあるものにも、彼が会話を交わすその相手にも、ことごとく黒い感情をかき立てられる。そんな狭量な自分を持て余すのもまた久しぶりのことだ。
 理一は携帯を閉じると、ポケットへとそれを滑らせながらソファから立ち上がった。ソファの背に掛けたままにしていた上着を手にとると、サイドボードに置いた部屋の鍵と車のキーを手に取る。
 メールの送信時間から換算すると、そろそろ乗換駅につく頃だろう。寒い中歩かせるのも何だし、買い物がてら駅まで迎えにいくのもたまにはいい。
 早くその顔が見たいと急かす自分をそう誤摩化して、理一は玄関へと足を向けた。






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