12月1日
「なんですか? これ」
佐久間は差し出されたものを受け取りながら首を傾げた。
紙製の、でもやけにしっかりとした作りの40センチ四方の四角い箱には、縦4段、横6段の引き出しがついている。それとセットで渡されたのは、やはり紙製の小さな緑色の物。
「知らない? Advent Calendar」
「あどゔぇんとかれんだー?」
箱を持ち上げ底まで覗き込む佐久間に苦笑しつつ、理一はその長い足をゆったりと組んだ。
「キリスト教圏では定番な風習なんだけどね」
理一はそう言いながら箱を指差した。
「引き出しに1から24まで数字がふってあるだろう?」
「ありますね」
言われてみれば、ちいさな取手の下には、洒落た書体で数字が書かれている。だが、その数字は規則正しく並んでいる訳ではなく、ランダムに表記されていた。
「その数字が日付。指定された日付の引き出しをあけるとその日にツリーに飾るオーナメントが入ってる」
それをそのツリーに飾っていくんだよ、そう説明されて、佐久間はようやく得心を得た。
なるほど、この紙製の緑の物体には、ところどころに糸を引っ掛けるための突起がある。つまりは、これが「もみの木」なのだろう。
「全部の引き出しを開けてオーナメントを飾り終えたら、25日のクリスマスに飾るツリーが完成すると」
「…なるほど」
分かりました、と頷いた佐久間に、理一も笑みを浮かべる。
「というわけで、それは佐久間くんの担当。毎日ちゃんと飾って、25日に完成品を見せてね」
そう言った理一に、佐久間はわずかに頬を赤く染めた。つまり、それは遠回しな「クリスマス一緒に過ごそう」という理一からのお誘いなわけで。二人の関係が呼び名を変えてから初めてのクリスマスに、こういうイベント事にあまり興味のなさそうな理一がわざわざこんなものまで用意してくれたことが、ただ純粋に嬉しい。
「…わかりました」
赤く染まった顔を見せたくなくて、少し顔を俯けてそう言った佐久間に、理一はひっそりと、でも、満足げな笑みを返した。
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